、コードとなり、交換台、中継台となり、又はアンテナ、真空管、ダイヤル、コイル等に変形すると同時に、全身の細胞各個に含まれている意識感覚の各種類にそれぞれ相当する、泣き係り、笑い係り、見係り、聞係り、記憶係り、惚れ係りなぞいう、あらん限りの細かい専門に別れながら、アノ通り夜となく昼となく、浮世を離れた気持になって、全身三十兆の市民の気持を隅から隅まで、反射交感させられているのだ。
 ……諸君は彼女たちに話しかけてはいけない。
 彼女たちは全身の細胞群の中から選み出された反射交感術の専門技手なのだ。だから彼女たちは、普通の交換局の彼女たちと同様に、自分がドンナ事を反射交感しているか……なぞいう事は全然知らないまま、一分一秒の休みもなく呼び出され、呼び出し、切り換え、継ぎ直させられているのだ。……内閣が代ろうが戦争が初まろうが、大地震が初まろうが、大火事になろうが、又は、暑かろうが寒かろうが、頭に蜂が螫《さ》そうが、尻に火が付こうが、頓着している隙《ひま》は無いのだ。彼女たちはタダそうした意識や、判断や、感覚を、全身に反射交感するアンポンタン・ポカン式電池、コード、交感台、コイル、ダイヤル、真空管、等々々に過ぎないのだから……。
 だから諸君は彼女たちに話しかけてはいけないのだ。彼女たちに物を考えさせてはいけないのだ。彼女たちにソンナ受持以外の仕事をさせて、彼女たちを二重に疲れさしてはいけないのだ。
 そうして彼女たちが、ほかの事を考えなければ考えないほど……単純な反射交感の仕事だけに一心不乱になればなる程、全身の反射交感機能が敏活、迅速を極めて行く。アタマが疲れない。チラチラしなくなる。頭脳明晰……シーク……ホガラカという事になって行くのだ。
 ナント簡単明瞭ではないか。アタマが、アンポンタン・ポカンとなるではないか。
 吾輩……アンポンタン・ポカン局長はここに於て明言する事が出来る。
 この簡単明瞭なる脳髄局のアンポンタン・ポカン式、反射交感組織にシャッポを脱いで、頭脳明晰……意識ホガラカとなったアンポンタン諸君のアタマならば、最早《もはや》、二度と再び脳髄のトリックに引っかからないであろう。脳髄で物を考えないであろう。……そうして最尖端式脳髄学のトップのトップを切った大博士となって、アラユル脳髄関係の不可思議現象を、一挙にアンポンタン・ポカン化し得ると同時に、この人
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