落ちかかるよ。残る一つの頼みの綱なら。赤い煉瓦の院長様よと。出来ぬ算段して来て見れば。どこへ行っても満員ばかりじゃ……チャカポコチャカポコ……
▼あ――ア。どこへ行っても満員ばっかり。しかもコイツが一段落ちて。その日暮しのシガナイ稼ぎじゃ。嬶《かかあ》は内職、娘は工場《こうば》。なぞというような一家となったら。酷《むご》さ悲惨《みじめ》さ話にならない。介抱どころか、お薬どころか。すぐにそのまま一家が揃うて。顎《あご》を天井に吊るさにゃならぬ。いっそ狂うて死んでもくれたら。まだも増しよと怨《うら》んでみても。当の本人キチガイ殿は。死ぬるどころか大飯喰ろうて。治癒《なお》る当《あ》て途《ど》もない顔つきだよ……チャカポコチャカポコ……
▼あ――ア。治癒《なお》る当てどもない顔付きだよ。こんな調子で人間世界に。麦の黒穂か菜種の馬か。花や野菜の狂いと同様。わけもわからず理屈も立てずに。ヒョクリヒョクリと現われ飛び出す。数え切れない精神病者を。無料《ただ》で引受け入院させるは。広い世間に大学ばっかり。それも寝台が何百あろうか。しかも慈善でするのじゃ御座らぬ。学生教授の研究材料。生きた標本講義の参考に。都合よいのを選《よ》り取り見取りで。アトは要らぬと玄関払いじゃ。ならば私立はどうかと見ますと。これは何しろ商売本位じゃ。みんな金ずく権柄《けんぺい》ずくめの。オエライ患者で超満員だよ……チャカラカ、チャカポコ……
▼あ――ア。エライ患者の大入満員。さても斯様《かよう》に持て余されたる。数も知れない狂人たちは。どこでどうして片付けられるか。さても不思議と審《しら》べてみたれば。サアサこれから又聞き事だよ。耳も聞こえず眼玉も見えない。口も動かぬ片輪《かたわ》の木魚が。見たり聞いたりして来た話が。腹は空《から》ッポ公平無私だよ。タタキ出します阿呆陀羅経《あほだらきょう》だよ。地獄めぐりのチョンガレ文句が。ドンと一段、深みへ落ちます。……サアサ寄った寄った話の種だよ。お金は要らない。聞いたらビックリ[#「ビックリ」は太字]……スカラカ、チャカポコチャカポコ。チャチャラカ、チャカポコチャカポコチャカポコチャカポコチャカポコ……
五
▼スカラカ、チャカポコチャカポコチャカポコチャカポコ。あ――ア――あア――ア。エ――エ。さても皆さん斯様《かよう》な次第で。一人のキチ
前へ
次へ
全470ページ中102ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング