よ。聞いたばかりで身の毛がザワ付く。八万地獄は愚かな事だよ。阿呆メチャクチャ出鱈目《でたらめ》放題。あらん限りの虐待つづける。この世からなる精神病者の。地獄ゥ――めぐりィ――はァ――サテこれェ――かァ――ら――じゃァ――い……スカラカ、チャカポコ。スカラカ、チャカポコ。チャカポコチャカポコチャカポコチャカポコチャカポコチャカポコ……

       四

 ▼スカラカ、チャカポコチャカポコチャカポコ。あ――ア。なんと皆さん魂消《たまげ》なさるなよ。これは日本の話じゃ御座らぬ。唐《から》や天竺《てんじく》あちらの話じゃ。世界各地の精神病医が。こんな無慈悲な心で建てたる。外観《みかけ》立派な病院地獄は。こんな愚かな亡者の患者で。一つ残らず満員している。それも道理かその第一には。そんな地獄の寝台《ねだい》の数をば。今の千倍、万倍したとて。人間世界のそこでもここでも。ヒョクリヒョクリとあらわれ飛び出す。精神病者の数には足りない。しかも一旦入院したなら。治癒《なお》る期間が長いはまだしも。一生出られぬ患者もあるので。否《いや》が応でも大入満員。そこでお医者が威張るわ威張るわ。どんな事でも患者に仕向けて。面倒臭いか納める金が。すこし渋るかするその時は。直ぐにドシドシ退院させます。自宅治療のお許し附きで。無事に出て来る患者もあれば。ほかの病気の診断書《おみたて》付きで。棺に這入って出るのも在るが。後の代りはアトカラアトカラ。押すな押すなの改札口だよ……チャカポコチャカポコ……
 ▼あ――ア。押すな押すなの改札口だよ。なれどソイツは話が怪訝《おか》しい。奇妙、不思議じゃ一体全体。そんな処へお金を出して。何がためなら入院させるか。なぞと御不審なされるお方は。われと身内に精神病者が。出来た経験持たない方だよ。まずはゆっくりお聞きなされませ。モット驚く話がこれから。チャカラカ、チャカポコ飛び出しまする。私ゃ知らんが木魚が知っとる。……チャカポコチャカポコ……
 ▼あ――ア。わたしゃ知らんが木魚が知っとる。もっと驚く事実があります。しかもどこでも共通平等。精神病院関係者ならば。云わず語りで誰でも知っとる。極秘親展正直正銘。ここを限りの話というたら。ちょっと辻褄《つじつま》合わぬか知らぬが。チャント合うのが木魚の話じゃ。すべてキチガイ患者を連れて。赤い煉瓦のお玄関先《げんかさき》へ。お辞儀し
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