木が本当にして、すっかり根を入れてお金を吸い上げてしまったのです。ですから風が吹くとあんなにお金の音がしたのです。ああ情けない。私はもう本当に一文なしになった。許して下さい、許して下さい」
 と泣きながらあやまりました。
 けれども坊さんに幾度もだまされた人々は、この坊さんの言葉を本当にしませんでした。
「この糞坊主のウソ坊主、まだおれたちを欺《だま》そうとする」
「憎い奴だ」
「殺せ、殺せ」
 と言ううちに寄ってたかってたたき殺して、割れた甕の中へ押し込んで、土をかぶせてしまいました。
 ところが又不思議なことには、その晩からいくら風が吹いてもその樫の木の葉の間にはちっともお金の音がきこえなくなりました。
 その代りにその土の下から小さな蝉が何|疋《びき》も何疋も這い出して来て、その樫の木に掴まって、夜が明けてから日の暮れるまで
「惜《お》しい、ツクツク
 惜しい、惜しい
 ツクツク、オシイ
 ツクツク、オシイ」
 と悲しそうに鳴いていました。
 村の人々はこの蝉をツクツク法師と名をつけました。あの坊さんはお金が惜しさにあんな虫に生まれかわって、あの樫の木につかまって「惜しい、惜しい
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