て御覧なさい。その代り、どうぞ半分だけで勘弁して下さい」
「この糞坊主、まだそんなことを言う。半分もクソもあるものか。生命だけは助けてやるからジッとしていろ」
と言いながら坊さんを樫の根方へ縛りつけてしまいました。
坊さんを樫の木へ縛りつけると、泥棒たちはみんなで横の方からその樫の根へ大きな穴を掘り始めましたが、成る程、だんだん穴が深くなると下の方から大きな甕が出て来ました。
「オイ大きな甕があるぞ。この中にその坊主はお金を隠しているのに違いない」
「さようです、さようです」
と坊さんは泣き顔をしながら言いました。
「それを半分だけ上げますから早く私を許して下さい」
「ウン、こんなに沢山あれば半分でいい」
と言いながら、坊さんの縄を解いてやりました。
「さあ見ていろ。この甕をタタキ割るから」
といううちに二、三人が鍬のあたまで甕の横腹を無茶苦茶にタタキ割りました。
見ると中には樫の根が一パイになっていて、お金は一文もありませんでした。
これを見た坊さんは泣き出しました。
「ああ、私がわるう御座いました。その樫の木を植える時に、お前にやるからしっかり番をしろと言ったのを樫の木が本当にして、すっかり根を入れてお金を吸い上げてしまったのです。ですから風が吹くとあんなにお金の音がしたのです。ああ情けない。私はもう本当に一文なしになった。許して下さい、許して下さい」
と泣きながらあやまりました。
けれども坊さんに幾度もだまされた人々は、この坊さんの言葉を本当にしませんでした。
「この糞坊主のウソ坊主、まだおれたちを欺《だま》そうとする」
「憎い奴だ」
「殺せ、殺せ」
と言ううちに寄ってたかってたたき殺して、割れた甕の中へ押し込んで、土をかぶせてしまいました。
ところが又不思議なことには、その晩からいくら風が吹いてもその樫の木の葉の間にはちっともお金の音がきこえなくなりました。
その代りにその土の下から小さな蝉が何|疋《びき》も何疋も這い出して来て、その樫の木に掴まって、夜が明けてから日の暮れるまで
「惜《お》しい、ツクツク
惜しい、惜しい
ツクツク、オシイ
ツクツク、オシイ」
と悲しそうに鳴いていました。
村の人々はこの蝉をツクツク法師と名をつけました。あの坊さんはお金が惜しさにあんな虫に生まれかわって、あの樫の木につかまって「惜しい、惜しい
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