の人たちはこれを聞くとみんな憤《おこ》って家中を探しましたが、成る程、坊さんの言う通り何処を探してもお金は一文もありません。
しかたがないのでみんな坊さんにあやまって、うちへ帰ってしまいました。
ところがどうでしょう。
夜になると、やっぱりチャランチャランと言う音が風につれて近所の村中へきこえて来ます。
これをきくと村の中でも力の強い意地のわるい人たちが五、六人寄ってこんな話をしました。
「あの坊主はお金がないなんてウソばかりついている。夜になるとあんなにお金の音がチャラチャラ言っているのに一文もない筈はない。大勢の人たちがお米がたべられないで困っているのに自分ばかりお金をためて知らん顔をしているなんてわるい奴だ。一つお前たちと一緒に泥棒に化けて行って、あの坊主をおどかしてお金を取り上げて、みんなにわけてやろうじゃないか」
「それがいい、それがいい」
と言うので、村の若い人たち五、六人は黒い布で顔をかくして鎌や鉈《なた》を持って、すぐにお寺に押しかけて行きました。
お寺に入った泥棒たちは寝ていた坊さんを引きずり起こして、
「さあ坊主、たった今勘定していたお金を出せ。出さないとたたき殺すぞ」
と言いました。
「勘弁して下さい。お金は一文もありません」
と坊さんはふるえながら申しました。しかし泥棒たちは承知しません。
「こん畜生、又嘘を吐《つ》く。お金がないのに何で音がするんだ。さあ出せ。早く出せ」
と言っているうちにお庭の方に風が吹いて、チャランチャランと言う音がしました。
「あッ。お金はあそこにある」
と一人が樫の木の方へ駈け出しますと、みんなあとからつづいて駈けて行きました。
これを見た坊さんは肝《きも》を潰《つぶ》して思わず、
「アッ。そっちにはお金はありません、ありません」
と言いながらあとからかけて来ました。
一人の若い者はふり返って睨みつけました。
「ソレ見ろ。こっちになければほかのところにあるのだろう。こんちくしょう、早く言え」
と言うなり坊さんを押えつけて鉈をふり上げました。
「ぶち殺せ、ぶち殺せ」
とほかのものも鎌や棒をふり上げました。
坊さんはしかたなしにとうとうほんとのことを言いました。
「助けて下さい、助けて下さい。本当のことを申します、本当のことを申します。この樫の木の下に埋めてあるのです。ウソだと思うなら掘っ
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