とに、こうした局面打開策は、そうした元気旺盛な、精力の強い人にして初めて出来る事で、何回となく死に損ねた、見かけ倒おしの私には全然不向きな更生法なのです。
ですから私は昨年の十二月から私一流の局面打開策をこころみ初めました。これは今までにも仕事に疲れた時なんかに、よくやって来た事ですが、中学に行っている長男や、私の家に遊びに来ている農村の青年なぞを引っぱって近郷近在の野山を盲目滅法《めくらめっぽう》に歩きまわるのでした。ヘトヘトに疲れて、上り框《かまち》からやっと這い上るくらい猛烈な試練と、夢一つ見ない睡眠を取った翌日、今一度、午睡をしてから眼を醒しますと、例によって例の如く、今までとは打って変った軽快さで、スラスラと原稿が書けるものと思い込んで、机に向ったものでしたが豈計《あにはか》らんや、一行も書けないのです。おまけにその書きかけの文章が不愉快で不愉快で、筆を入れる勇気も何もないくらい詰まらないものに見えて来るのです。自分はコンナものを発表する気で書初めたものか知らんと思うと我ながら愛想が尽きてしまうのです。
そこで又、着のみ着のまま家を飛出して、地図も何も持たないまま、盲目
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