お身体《からだ》の近くで、そのような恐ろしい事が起るので御座います。そうして……そうして……お姫《ひい》様は……お姫《ひい》様は……」
「ホホホホホホ。キットお前一人のものになると云うのでしょう」
 ハラムは真赤な上にも真赤になった。眼に泪《なみだ》を一パイに溜めた。口をポカンと開いて、今にも涎《よだれ》の垂れそうな顔をしたが、両手をさし上げたまま床の上にベッタリと、平蜘蛛《ひらぐも》のようにヒレ伏してしまった。
「もういいもういい。わかったよわかったよ。それよりも早く御飯の支度をして頂戴……お腹がペコペコになって死にそうだから……」

 妾のお腹の虫が、フォックス・トロットとワルツをチャンポンに踊っていた。そこへ美しい印度式のライスカレーが一皿分|天降《あまくだ》ったら、すぐに踊りをやめてしまった。妾はお腹の虫の現金なのに呆れてしまった。それからハラムの御自慢の、冷めたいニンニク水をグラスで二三杯流し込んでやると、虫たちはイヨイヨ安心したらしく、グーグーとイビキをかいて眠り込んでしまった。だから妾もすぐに、寝台の上に這い上って、羽根布団にもぐり込んで寝た。死んだようにグッスリと眠って
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