いが、菓子にはみんな西洋の名前が付いているんだ。あめ[#「あめ」に傍点]だのせんべい[#「せんべい」に傍点]なぞ言うのはみんな安っぽい美味《うま》くないお菓子ばかりだ」
「嘘を吐《つ》け。羊羹[#「羊羹」は底本では「羊※[#「羹」の「大」に代えて「人」、268−下−20]」]なんて言うのは貴様よりよっぽど上等だぞ。コンペイトウは露西亜《ロシア》語の名前だけれど、俺よりずっと不味《まず》いぞ。ウエファースなんていう奴はいくら喰ったって喰ったような気がしないじゃないか」
「馬鹿を言え。あれでもなかなか身体のためになるんだ。おれなんぞは牛乳が入っているから貴様よりずっと上等だ」
「こん畜生、おれだって肉桂《ニッキ》が入っているんだ。肉桂はお薬になるんだぞ。貴様の中に牛乳が何合入ってりゃあそんなに威張るんだ」
「何を小癪な」
「何を生意気な」
 とうとう取っ組み合って、大喧嘩になりました。最前から見物していたキャラメルの仲間のミンツ、ボンボン、チョコレート、ドロップス、飴玉の仲間の元禄、西郷玉、花林糖、有平糖なぞはソレというので馳け寄って、双方入り乱れてゴチャゴチャに押し合い掴み合っているうち
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