い、風来坊の身の上でしたから仕方がありません。その記者が寝間着《ねまき》にしていた古浴衣を貰い受けまして、その別荘の御厄介になりながら、毎日毎日ボンヤリしていた訳でしたが……。
……エッその新聞記者の名前ですか。
……ええっと……。オヤッ。おかしいな……何とかいったっけが……ツイ今サッキまでハッキリと記憶《おぼ》えていたんですが。……オカシイナ……ツイ胴忘《どうわす》れしちゃってチョット思い出せないんですが。エッ。何ですって……。
生命《いのち》の親様の名前を忘れるなんて、言語道断だと仰有《おっしゃ》るのですか……ト……飛んでもない。アンナ奴が生命《いのち》の親様なら、猫イラズは長生《ながいき》の妙薬でしょう。
私が前に申しましたような、容易ならぬ大罪人の前科者という事実を、早くもその時に看破するや否や、一種の猟奇趣味の満足のためとしか思えない、極めて残忍な方法でもって、私の運命を手玉に取るべく、ソロソロと手を伸ばしかけていた悪魔というのは、誰でもない。その生命《いのち》の親様だったのです。谷山家の獅子身中の虫となって、私を半狂人《はんきちがい》になるまで苦しめ抜く計画を、冷静
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