》の実を拾いながらヤットのことで、念がけていた人跡未踏の山奥に到着しますと、私は辛苦艱難をして持って来た鍬と、ナイフで木を伐《き》り倒して、頑丈な掘立て小舎を造り、畠を耕して自給自足の生活を初めると同時に、小川の魚を釣って干物にしたり、木の実を煮て苞《つと》に入れたりして、冬籠《ふゆごもり》の準備を初めました。
 二人はそこで初めて、この上もなく自由な、原始生活の楽しさを悟ったのです。科学、法律、道徳といったような八釜《やかま》しい条件に縛られながら生きている事を、文化人の自覚とか何とか錯覚している馬鹿どもの世界には、夢にも帰りたくなくなったのです。
 二人は約束しました。……二人はこれから後《のち》イクラ子供が出来ても、年を老《と》っても、モウ人間世界へは帰るまい。アダムとイブが子孫を地上に繁殖させたようにして、吾々の子孫をこの神秘境に限りなく繁殖させよう。自然のままの文化部落を作らせよう……と……。
 彼女はそれから年児《としご》を生みました。私が二十一の年から二十五までの間に、男の児と女の児を二人|宛《ずつ》、都合四人の子供を生みましたが皆、病気一つせずに成長しましたので、山の中
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