るかと思うと、イヤそうではあるまい。ことによるとそれは、太古以来生き残っている原人の棲家《すみか》かも知れない……なぞと云い出す凝《こ》り屋《や》も居る。そうかと思うと……ナアニそれは薬草採りが見当違いをしたんだ。大方北見|境《ざかい》に居る猟師の家を遠くから見たんだろう……なぞと茶化《ちゃか》してしまう者も居る……といった塩梅《あんばい》で、サッパリ要領を得ないままに、噂ばかりがヤタラに高まって行った。
 そのうちにその評判が、トウトウ新聞社の耳に這入《はい》ると、イヨイヨ騒ぎが大きくなってしまった。結局Aが奉公していた小樽タイムスの政敵、函館時報社の飛行機で撮影された、その家の鳥瞰《ちょうかん》写真が、紙面一パイに掲載されることになったが、その写真をよく見ると、それは明らかに日本人が建てたらしい草葺《くさぶき》小舎で、外国映画に出て来る丸太小舎《ロッグケビン》式の恰好をしているばかりでなく、純日本式の野菜畑や、西洋式の放射状の花畑なぞが、ハッキリと映っているところを見ると、皆の想像とは全然違った文化人の住居《すまい》に違いない。しかも、それでいてその位置はというと、確かに、北海道の
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