いますと、お妃は嬉しさのあまり王子を犇《しっかり》と抱き締められましたが、やがてその手をゆるめて、手真似でどこかへ逃げるように王子に教えておられるようです。
王子は地びたへ両手をついてお礼を云いました。
そのうちに、お妃は涙を流しながら王子と別れて、表の方へ出て行かれました。
それを見ていたオシャベリ姫は、急いで梯子段を降りて、王子の傍に行こうとしましたが、その時は何だかお城の中が急に騒々しくなったようで、風の音のきれ目きれ目に沢山の人の足音がするようですから、姫は外をのぞいて見ますと、大変です。
沢山の兵隊が手に手に短刀を持って、この塔の方へ押しかけて来るようです。
これを見た姫は思わず上から叫びました。
「王子様、大変ですよ。大勢の兵隊が攻めて来ますよ」
王子はこれをきくと、すぐに表に走り出て見ましたが、忽《たちま》ち塔の中に駈けもどって、右に左に折れまがった梯子段を、一つのぼっては引き外《はず》して投げおろし、二つのぼってはつき落して、塔の上まで昇ってくるうちに、階段が一つも無いように下の方へ落してしまいました。
そこへ大勢の兵隊が攻めかけて来ましたが、梯子段が落ち
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