になりました。
「これから本当のことをお話しなさい。ね、いい子だから」
 とお母様のお妃様がおとりなしになりました。
 けれどもオシャベリ姫は平気でこう云いました。
「いいえ。これからが本当なのです。今までのは今度の本当におもしろいお話をするためにお話ししたのです」
「何……これからが本当に面白い話だと云うのか」
「それはどんな話ですか」
 と王様もお妃様もお尋ねになりました。
 オシャベリ姫は又お話を初めました。
「あたしは今までお話しした二つの夢がさめますと、ほんとに今夜は変な晩だと思いました。だって、寝ていれば黒ん坊が来そうだし、女中の室《へや》に行ったらばまた何だか変なことを見そうなので、困ってしまいました。それでしかたなしに寝床にねたまま二人の女中の名前を呼んでみました」
「ああ、それはよかった。初めからそうすればよかったのに」
 と王様が云われました。
「でも前のは夢ですもの。しかたがありませんわ」
「ウン、そうだったな。それからどうした」
「そうしたら二人の女中が二人ともハイと云っておきて来ましたから、妾はやっと安心をして、今お話しした二つの夢のお話しをしてきかせました」
「二人とも吃驚《びっくり》したでしょうねえ」
 と今度はお妃が云われました。
「エエ、ほんとにビックリして二人とも顔を見合わせましてね。ニコニコ笑って……それは大変にお芽出度い夢で御座います……って云うんですの」
「ホー。どうして芽出度いのだ」
「宝物《たからもの》を盗まれたり、女中が死んだりする夢が何でそんなに芽出度いのかえ」
 と王様とお妃様は又も揃ってお尋ねになりました。
「それはこうなのです。二人の女中の云うことには、この国で一番芽出度い夢は『短刀と蜘蛛』の夢と昔から言い伝えてあるって云うんです」
「フーム、そうかなあ」
「あたしは初めてききました」
 と王様とお妃様は顔をお見合せになりました。
「あたしもよく知りませんけど、女中がそう云うんですの」
 とオシャベリ姫は云いました。
「して、それはどういうわけで芽出度いのだ」
 と王様がお尋ねになりました。
「何でも短刀と蜘蛛の夢を見るといいお婿《むこ》さんが来ると、みんなが云うのだそうです」
「まあ、それはほんとかえ」
「ほんとだそうです。けれども、そんな夢を見たことが相手のお婿さんにわかるとダメになるのだそうです。ですから
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