三工場の鋳造部附属の木工場の蔭へ走り込んで行った。
コスモスが風に吹かれて眩しく揺れ乱れた。
その時に、あとに残った事務員風の男は、すこしばかり身動きしかけたようであったが、そのままグーッと身体《からだ》を伸ばした。その拍子に白い額が真赤に血に染まっているのが見えた。
「アッ……本物だっ……」
三人の職工は誰が先ともわからないまま現場《げんじょう》に駈付けた。
しかし、すべては手遅れであった。事務員風の男は頭蓋骨をメチャメチャに砕かれていたが、その悽惨な死に顔は、真正面《まとも》に眼を当てられない位であった。その枕元に突立った三人は、無表情に弛んだ真青な顔を見交すばかりであった。
そのうちに両眼に涙を一パイに溜めた又野が、唇をワナワナと震わした。感情に堪えられなくなったらしくグッと唾液《つば》を呑んで、足元の無残な血だらけの顔を力強く指《ゆびさ》した。
「……ミ……見い……これが……芝居かッ……」
又野の両頬を涙がズウーと伝い落ちた。火の付くような悲痛な声を出した。
「……わ……わ……汝輩《われども》が二人で……コ……殺いたんぞッ……」
二人は恨めしそうな眼付で、左右から
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