に残っている肩幅と、その膝頭の褶紋とを突合せられると、流石の音吉も汗ビッショリになって恐れ入ってしまった。
「そこまで御調べが届いていちゃ白《しら》を切っても間に合いませぬ。私の運の尽きで御座いましょう。女|毛唐《けとう》を殺したのは私に相違御座いませぬ。今までシゴト(窃盗専門の意)以外には女なんか振向いた事もない私で御座いましたが、あの晩に限って魔がさしたので御座いましょう。……ドウモあの刺青がイケなかったようで……薄暗い電燈の下にハダカっている真白い、雪のようなお乳の横に、毒々しい真青な花ビラが浮上って、スヤスヤと寝息をしているもんですから、ツイ妙な気持になってしまいました。私の一生の縮尻《しくじり》で御座いました。女ってえものはヤッパリ魔者なんで……ヘヘヘ……。
何も盗《と》らずに逃出しました理由は、ほかでも御座いませぬ。あの女毛唐を片付けてホッとしておりますうちに、波の音一つ聞こえない位シインとなっている硝子《ガラス》窓の外の暗《やみ》の中で、微かに草履を引ずるような音がゾロゾロッと聞こえたのです。私は思わずハッと固くなってしまいました。生れて初めて人を殺しましたので気持がど
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