解体した結果判明した。それから犯人は玄関の内側に面した鍵の掛かっていない扉を押開いて夫人の寝室に侵入し、寝台の上で夫人と格闘してこれを絞殺した以外には、一物も奪い得ずに逃走した事実……等々々が、何の苦もなく推定されたが、ここに困るのはそれ以外の、室外に於ける犯人の行動がサッパリわからない事であった。
 ロスコー家の周囲の松原には砂まじりの赤土の中から丸い石が一面にゴロゴロと露出していて苔があまり生えていない。そのために靴で踏んでも素足で歩いても足跡が全然残らないようになっていた。しかしその石のゴロゴロした松原の周囲は、岬の突端に在る松林続きの岩山を除いた全部が、真白い綺麗な石英質の砂浜になっているのだから、犯人がその岩山伝いに松原を潜って来て、帰りにも亦おなじ筋道を逆行しない限り、その松林の周囲のどこかの砂原に足跡が残っていなければならない筈であった。然るにその砂浜に残っている足跡といっては、対岸のR市から波際伝いに歩いて来た二人の沙魚《はぜ》釣男のソレと、その前に郊外電車の停留場から、やはり海岸伝いに帰って来て、マリイ夫人の死骸を見て仰天し、波打際でブッ倒おれた迄のロスコー氏の靴跡を除いては何一つ発見出来なかった。してみると犯人は闇夜の海上伝いにどこからか泳いで来るか、又は船を漕いで来て、岬の突端の岩山を越えて来たものでなければならない筈であるが、それは余程この辺の地理に精通している上に、そうした汐時と、汐先の加減を十分知り抜いていない限り、ずいぶん当てずっぽうな冒険的な遣り方で成功したものと考えなければならなかった。のみならず、その問題の岩山の上には、酔っ払っていたとはいえロスコー家の雇人の東作が寝ていたというのだから、話が何となく妙チキリンである。たとい東作を犯人として考えても、何となく辻褄《つじつま》の合わないところがあるように考えられる。
 そんな事が評議、研究されているうちに、間もなく正午過ぎになると、又々異様なものが、このバンガローの中から次から次に発見されて、係官たちを面喰らわせた。

 その第一は玄関の奥に、台所と隣合って設計されている浴室の立派な事であった。それはマリイ夫人の寝床の下から発見された鍵束でヤット開かれたものであったが、超モダンな分離派式タイル張《ばり》の三坪ばかりの部屋の天井と四壁に、贅沢にも十数個の電球と、合計七個の大小の鏡を取附
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