がちゃがちゃ
夢野久作

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)蟋蟀《こおろぎ》
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 草の中で虫が寄り合って相談を始めました。
 蟋蟀《こおろぎ》が立ち上って、
「鈴虫さん、オケラさん、スイッチョさん。もっとこちらへお寄りなさい。だんだん涼しくなりますから、みんなで合奏会をやってお月様にきかせようではありませんか。きっと御ほうびを下さいますよ」
 と言いますと、皆パチパチと手をたたきました。
 虫たちはそれからすぐに合奏を始めました。
 まずスイッチョが草の天辺へ立ち上って真面目腐って、
「スイッチョ、スイッチョ」
 と合図をしますと、オケラが土くれの蔭に坐ってしずかなこえで
「リ――リリ――」
 と羽根を鳴らします。それにつづいて蟋蟀が草の根本から涼しい声で、
「チンチロリン、チンチロリン」
 とうたい出します。その中へ鈴虫が又やさしい長いひげをふりまわしながら、
「リーン、リーン、リーン」
 と鈴の音をさせます。
 その静かでおもしろいこと……ちょうどそのとき東の山からお昇りになった十五夜のお月様は、感心のあまり虫たちが大好きな露をたくさんにそこいらの
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