あ」
 と思いながら、涙をこぼしてジッと寝ておりました。
 すると玄関の方で、
「郵便……」
 と大きな声がして、何かドタリと投げ出される音がしました。五郎さんは思わず大きな声で、
「ハイ」
 と言って飛び起きて駈け出しますと、それは四角い油紙で、何だかお菓子箱のようです。しかもその表には「五郎殿へ」と書いて、裏には兄さん夫婦の名前が書いてありました。
 五郎さんは夢中になって硯箱《すずりばこ》の抽出《ひきだし》から印《いん》を出して、郵便屋さんに押してもらって、小包を受け取りました。鼻を当て嗅《か》いでみると、中から甘い甘いにおいがしました。
 五郎さんはもう夢中になって、鋏を持って来て小包を切り開いて見ると、それは思った通りお菓子で、しかも西洋のでした。……ドロップ、ミンツ、キャラメル、チョコレート、ウエファース、ワッフル、ドーナツ、スポンジ、ローリング、ボンボン、そのほかいろいろ、ある事ある事……。
 それから食べたにもたべたにも、一箱ペロリと食べてしまった五郎さんは、空箱と包み紙や紐を裏の掃きだめに棄てに行って、帰りがけに台所へ行ってお茶をガブガブ飲むと、そのまま何喰わぬ顔で蒲
前へ 次へ
全6ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング