愛想なものね。年中太陽に晒《さら》されて、豚小屋みたいな処に寝ころんで……」
「ウーン。女でも男でもずいぶん黒いね。トテモ人間とは思えない」
「男はみんなゴリラで、女はみんな熊みたいに見えるわよ」
「ハハハハ、ゴリラかハハハ」
「ホホホホヒヒヒヒヒ」
 すると、ちょうど網干場のまん中の渋小屋《しぶごや》(網に渋を染める小屋)の蔭で遊んでいた子守女《こもり》が二三人、鳴りを鎮《しず》めて二人の会話に耳を傾けていたのであったが、こうした言葉をきくと流石《さすが》に憤慨したものと見えて、子供を背負《しょ》い上げながら大急ぎで村へ帰って来た。そうして村の連中が夏祭りの相談をしながら、一杯飲んでいる処へやって来て、口々に忠実めかして報告した。
 只さえ気の荒い外海《そとうみ》育ちの上に、もういい加減酔払っていた若い連中は、これを聞くと一時に殺気立ってしまった。中にも赤褌《あかふんどし》一貫《いっかん》で、腕へ桃の刺青《いれずみ》をした村一番の逞ましいのが、真先に上《あが》り框《かまち》に立って来て呶鳴《どな》った。
「……何コン畜生……ごりら[#「ごりら」に傍点]タア何の事だ……」
「……知らん
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