ので買って来た……しかし畜生は薬がよく利くから、分量が少くてよいという事を俺はきいている。だから人間は余計に服《の》まなければ利くまいと思って、その赤玉ちうのを二つ買って来た。これを一時《いちどき》に服んだら大抵利くだろう。金は要らぬから、とにかく服んで見イ……と云ううちに兼は白湯《さゆ》を汲んで来て、薬の袋と一緒に私の枕元へ並べました。私は兼の親切に涙がこぼれました。このアンバイでは俺が兼に十円借りていたに違いないと思い思い薬の袋を破ってみますと、赤玉だというのに青い黴《かび》が一パイに生えておりまして、さし渡しが一寸近くもありましたろうか……それを一ツ宛《ずつ》、白湯で丸呑みにしたんですがトテも骨が折れて、息が詰まりそうで、汗をビッショリかいてしまいました」
「……フーム。それで風邪は治ったか」
「ヘエ……今朝《けさ》になりますと、まだ些《すこ》しフラフラしますが、熱は取れたようですから、景気づけに一パイやっておりますところへ、昨日《きのう》、兼からの言伝《ことづて》をきいたと云って、鰻取りの医者が自転車でやって来ました。五十位の汚いオヤジでしたが、そいつを見ると私は無性に腹が立ち
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