その粘土細工の時間にもFはあまりの事に彼のそばに行つて、やゝ語調を荒くしてたづねた。
「おい、お前は何をしてるんだ。一時間たつても何もしないぢやないか。なぜ、さうぼんやりしてるんだ」
教師のさうした詰問に、彼はまるで夢からさめでもしたやうに、きよとんとした顔を上げた。そしていかにも困つたといふ風に訴へた。
「先生、私は幽霊を作りたいんです。作らうと思ふ幽霊はハツキリ目に見えてゐるんです。けれども、いつかうちのお母さんは幽霊といふものは足のないものだといつて聞かせました。でも、足がなくては立てません。私はそれを考へてゐたんです。先生! どうしたら足がなくても立たせることが出来るでせうか。それさへわかれば今すぐ私は幽霊をこしらへます」
それには教師もまいつてしまつた。むしろ一種の驚異さへも感じさせられた。そしてたゞかう答へるより外なかつた。
「よし、よし。それでは今日はそれでやめにして置くがいい。その代りいつでもいゝからお前がその工夫の出来た時に作つて持つて来るがいゝ」
しかし、その生徒は卒業するまでつひにそれを作り得ずにしまつた。或は一生涯彼はそれを考へ続けるのかも知れない。教
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