くまっていたところを、急に崩れ落ちて、こんなあさましい最後を遂げたに相違あるまい。
 少年の事情はせめて小林監督にでも話してやろう、私は顔をあげて死骸の傍に突っ立っている逞《たくま》しい労働者の群を見た。薄い冬の夕日が、弱い光をそのあから顔に投げて、猛悪な形相《ぎょうそう》に一種いいしれぬ恐怖と不安の色が浮んでいる。たとえば猛獣が雷鳴を怖れてその鬣《たてがみ》の地に敷くばかり頭を垂れた時のように、「巡査《おまわり》が来た!」
「大将も一しょじゃあないか」「大将が来たぞ!」と土方は口々に囁く、やがて小林監督は駐在所の巡査を伴立《つれだ》ってやって来た。土方は言い合わせたように道をあける。

     二十二

「いい成仏《じょうぶつ》をしろよ!」と小林の差図で工夫の一人がショーブルで土を小さい棺桶の上に落した。私はせめてもの心やりに小石を拾って穴に入れる。黙っていた一人がこんどは横合いから盛り上げてある土をザラザラと落したので棺はもう大かた埋もれた。
 小坊主が、人の喉を詰まらせるような冷たい空気に咽《むせ》びながら、鈴を鳴らして読経をはじめた。
 小林は洋服のまま角燈を提げて立っている。
 私が変死した少年のことについて小林に話すと、彼は非常に同情して、隧道《トンネル》の崩れたのは自分の監督が行き届かなかったからで、ほかに親類《みより》がないと言うならば、このまま村役場の手に渡すのも可憐そうだからおれが引き取って埋葬してやるというので、一切を引き受けて三田村の寂しい法華寺《ほっけでら》の墓地の隅に葬ることとなった。もっともこの寺というのは例の足立駅長の世話があったのと、納豆売りをしていた少年の母のことを寺の和尚《おしょう》が薄々知っていたのとで、案外早く話がついて、その夜のうちに埋葬してしまうことになったのだ。
 今夜はいつになく風が止んで、墓地と畑の境にそそり立った榛《はん》の梢が煙のように、冴《さ》え渡る月を抽《ぬ》いて物すごい光が寒竹の藪《やぶ》をあやしく隈どっている。幾つとなく群立った古い石塔の暗く、また明《あか》く、人の立ったようなのを見越して、なだらかな岡が見える。その岡の上に麦酒《ビール》会社の建築物が現われて、黒い輪廓《りんかく》があざやかに、灰色の空を区画《くぎ》ったところなど、何とはなしに外国《とつくに》の景色を見るようである。
 咽《むせ》ぶよ
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