は知っていたから。正気づくとまた、私はひどく――おお! なんとも言いようもないほど――気分が悪く衰弱していることを感じた、ちょうど長いあいだの飢え疲れのように。その苦痛のあいだにさえ、人間の本能は食物を求めるのであった。私は苦しい努力をして左腕を紐の許すかぎり伸ばし、鼠が食い残しておいてくれた食物のわずかな残りを手に入れた。その一片を口のなかへ入れたとき、私の心には半ば形になった歓喜の――希望の――念が湧《わ》きあがった。しかしこの私が[#「この私が」に傍点]希望などになんの用があろう? それはいま言ったとおり、なかば形になった考えであった。――人はよくそんな考えを持つが、それは決して完成されるものではない。私はそれが歓喜の――希望の――念であることを感じた。しかしまたそれが形になりかけて消えてしまったことを感じた。それを仕上げようと――取りもどそうと努めたが無駄だった。長いあいだの苦しみは、私のあらゆる普通の心の能力をほとんど絶滅させてしまっていた。私は低能者になっていた、――白痴になっていた。
振子の振動は私の身の丈《たけ》と直角になっていた。私は偃月刀が自分の心臓の部分をよぎる
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