ひそめてでなければくりかえして話すことができないくらいにもの凄《すご》い話であった。私はこの地下の暗黒の世界で餓死させられるのであろうか? さもなければ、たぶん、それよりもっと恐ろしいものではあろうが、どんな運命が私を待っているのであろうか? その結果が死であり、それも普通の苦しさ以上の死であろうということは、あの裁判官らの性質をよく知っている私には疑う余地もなかった。ただその方法と時間とが、私を考えさせ、あるいは悩ましたすべてであった。
 ひろげていた手はとうとうなにか固い障害物につき当った。それは壁であったが、石造らしく――ひどくなめらかで、ぬらぬらしていて、冷たかった。私はそれについて行った。ある昔の物語が教えてくれた注意深い警戒の念をもって、一歩一歩進んだ。しかし、この方法は牢の広さを確かめる手段とはならなかった。というのは、一まわりしてもとの出発点に戻っていても、そのことがわからないからであって、それほどその壁は完全に一様なものらしかった。そこで私は、宗教裁判所の部屋のなかへ連れて行かれたときにポケットのなかにあったナイフを探した。がそれはなかった。私の衣服は粗末なセルの着物
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