節に「すでに、ユダは此つとめを離れて其住くべき処に往きたり。」とある。「聖書に書いてあるあの男」はこのイスカリオテのユダをさし、「往くべき処」は地獄のことである。
一八 サヴァナ。――北アメリカの大西洋岸にある港。今の合衆国のジョージア州にある。
一九 ダブルーン金貨や、…………。――「ダブルーン金貨」は往時のスペインの金貨。「ルイドール金貨」はルイ十三世時代に初めて鋳造されて大革命まで通用していたフランスの金貨。「ギニー金貨」は十七世紀後葉から十九世紀初葉まで流通していたイギリスの金貨。「八銀貸」は表に8R(八レーアルの意味)の字を記《しる》してあるスペインの古銀貸である。この物語は冒頭に書いてあるように一七――年代のことであるから、当時はこれらの貨幣が流通していたのであるが、ギニー金貸以外は外国の貨幣であるから、勘定が出来ないのである。
二○ ジョージ金貨。――当時流通していた聖ジョージの像を刻したイギリスの貨幣。
二一 嗅塩。――婦人などに用うる鼻で嗅がせる気附薬。
二二 黒髯。――本名エドワード・ティーチ。スペイン海を荒し※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]った残忍不敵な有名な海賊。
二三 トゥリニダッド。――西インド諸島中の最南の島。スペイン海にある。
二四 スペイン港。――トゥリニダッド島の首都。
二五 パーム礁島。――北アメリカのフロリダ半島の西海岸にある島。タムパ港を湾内に有するタムパ湾の入口にある。
二六 カラカス。――南アメリカのヴュネズエラの首府。
二七 とっくの昔に珊瑚に…………。――人間が海に沈んで死ぬと骨が珊瑚になると昔は考えられていたからである。
二八 島の地図。――巻頭の地図参照。なお、第三篇以後においては物語の進行に従い必要に応じてこの地図を屡々参照のこと。
二九 一ポイント。――羅針盤の周囲の三十二分の一。すなわち直角の八分の一の角度。
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〔第二篇 船の料理番〕
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三○ スクーナー船。――縦帆式帆装の帆船。時には四檣または五檣のものもあるが、普通二檣あるいは三檣である。帆が縦帆式であることは特に第五篇のために記憶されること。
三一 ホーク。――イギリスの有名な提督エドワード・ホーク(一七〇五―一七八一)のこと。一七四七年と一七五九年とにフランスの艦隊と戦って破ったことがある。
三二 水夫らが揚錨絞盤の周りを…………歩き※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]る。――すなわち、絞盤を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]して錨を捲き揚げ、出帆すること。
三三 悪しき者虐遇を息める処。――冥土のこと。旧約全書ヨブ記第三章第十七節に「彼処《かしこ》にては悪しき者虐遇を息め、倦み憊れたる者|安息《やすみ》を得。」とある。
三四 ※[#「木+裃のつくり」、第3水準1−85−66]杖。――跛者などが腋の下にあてて歩くに用うる丁字形の杖。撞木杖。
三五 三孔滑車。――船で静索や支索を張ったりその他の目的に用いる締索を通す三箇の孔のあいている滑車。円くて、孔が三つついているので、顔を罵って三孔滑車かと言ったのであろう。因に、これらの船乗たちはその会話に頻りに海語を用いている。
三六 船底潜らせ。――長い索でたぐって一舷から他舷へ、または船首から船尾へ、船底の水を潜り越させる刑罰のこと。往時イギリスやオランダの海軍で一種の懲罰として重罪人に科したものである。
三七 中央刑事裁判所。――ロンドンの往時の有名な裁判所。
三八 ボー街。――一七四九年に建てられたロンドンの有名な警察裁判所のある街の名。
三九 一クォート。――一ガロンの四分の一。わが六合余。
四○ 封緘命令。――或る時期まで、または船艦などが或る地点に達するまでは、開封すべからざる命令。その時期またはその場所に到って初めて開封して任務を知るのである。
四一 円材。――船では檣、桁、防材などをいう。
四二 肉焼き台。――大きな肉をのせて焙る鉄製の枠のこと。料理室で使うものであるから、それを料理番のジョン・シルヴァーの綽名にしたのである。
四三 イングランド船長。――実在した有名な海賊、ネッド・イングランドのこと。
四四 マダガスカルにも…………。――マダガスカル島は往時インド洋の海賊が根拠地とした島。マラバーはインド南西の海岸、スリナムはオランダ領ギアナのこと、プロヴィデンスはカリブ海にある島、ポートベローはパナマ地峡の北岸にあった港、いずれも昔海賊に荒された土地であった。
四五 ゴア。――インドの西海岸にあるポルトガルの植民地。
四六 頤を突き出す。――怒った時の態度。
四七 コーリー要塞。――アフリカの黄金海岸にあったイギリスの要塞。
四八 ロバーツ。――海賊バーソロミュー・ロバーツのこと。最後に軍艦と戦闘して死んだ。
四九 デーヴィス。――海賊ハウエル・デーヴィスのこと。大胆無類の海賊だったが、部下の一人に殺された。前のロバーツはこの男の後継指揮者であった。
五○ 何百ファージングの代りに何百ポンドと…………。――一ファージングは四分の一ペニーという小額であり、一ポンドは二十シリング、一シリングは十二ペンスであるから、ポンドはファージングの約一千倍近くに当るのである。
五一 「分限紳士」というのは…………。――海賊は、掏摸やこそ泥や普通の強盗などを軽蔑して、自分たちを戯れに「分限紳士」と称していたのである。
五二 仕置波止場。――テムズ河のロンドンの披止場にあった、海賊どもが鎖で絞殺されて日に曝された仕置場。
五三 キッド船長。――有名な海賊ウィリヤム・キッド。彼は後にボストンで捕えられてイギリスへ送られ、一七〇一年にロンドンの仕置波止場で絞殺された。
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〔第三篇 私の海岸の冒険〕
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五四 高潮線。――海浜に残る高潮すなわち満潮の跡。
五五 投銭戯。――小銭を投げて穴の中へ入ったものな取る子供のやる賭戯。
五六 闘い、殺害、不意の死。――イギリス教会公定祈祷書の中にある文句である。
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〔第四篇 柵壁〕
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五七 三点鐘。――船では、定刻を報ずるに、零時半に時鐘を一点打ち、二時に二点打ち、以下半時間毎に一点ずつ加えて打ち、八点に至ると、当直の交代時間となり、また一点に返るのである。故に、四時、八時、十二時が八点鐘の時刻であり、一時半は三点鐘である。
五八 「リリバリアロー」。――一六八六年頃に作られたアイルランドの旧教徒を諷刺嘲笑した政治的歌謡。「リアロー、リアロー、リリ・バリアロー」云々という畳句《リフレーン》があるのである。一六八八年の革命の勃発に与《あずか》って力があったと言われ、革命の間及びその後にイングランド中で非常に流行し、軍隊や人民に盛んに歌われた。
五九 カムバランド公爵。――ジョージ二世の第三子、イギリスの将軍であるウィリヤム・オーガスタス(一七二一――一七六五)。
六○ フォンテノイ。――あるいはフォントノア。ベルギーの村。ここで、一七四五年五月十一日、カムバランド公の率いたイギリス、オランダ、オーストリアの聯合軍五万が、フランス軍七万と戦って敗れた。両軍の死傷はすこぶる多大であったと伝へられている。
六一 詰開き。――航海用語で、帆船が出来るだけ風上に向って帆を揚げ、風の来る方に近く帆走し上ること。ここでは船長がその語を比喩的に用いたのである。
六二 海賊旗。――黒地に白く頭蓋骨と二つの交叉した大腿骨とを染め抜いた海賊の旗。
六三 半潮。――満潮と干潮との中間。
六四 パルマ・チーズ。――パルマはイタリー北部にある州で、その地方で製するチーズは古くから有名であった。
六五 「いざ、乙女よ、若人よ。」――イギリスの昔の歌謡。
六六 口笛を吹いて風を呼ぶ。――凪《なぎ》の時には口笛を吹けば風が吹き出すという船乗の迷信があったのである。
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〔第五篇 私の海の冒険〕
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六七 両櫂。――訳語がないので仮にこう訳しておく。両端に水掻の扁平部がある櫂で、舟の左右両側で交々水を掻くのである。
六八 革舟。――木の骨組に獣皮を張って造った原始的な小舟。今日でもウェールズ、アイルランド、フランスなどの河川湖水で漁夫が用いる。ごく軽くて背負って遊ぶことが出来るのである。
六九 淦。――舟底のたまり水。
七○ 南の方へ。――これは原作者の誤りであろう。「北の方へ」でなければならない。
七一 一ジル。――一クォートの八分の一。わが約八勺。一合近くの量。
七二 間切る。――帆船が風上に向って進む時の言葉で両舷を代る代る風にあてて風上に向って電光形の航路で進行することをいう。この時は南風だから、北の岬を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]ってそこから北浦まで南の方へ帆走するには、間切らなければならないのである。
七三 北東の角。――この「北東」の語は妥当ではない。「北西」の誤りであるかも知れない。でなければ「北の岬の北東の角」の意味であろう。
七四 ようそろ。――船の向が現在のままでよしという意味を舵手に伝へる命令の言葉。
七五 横静索。――檣を左右側方に支持するために檣頭から両舷へ張ってある静索。
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〔第六篇 シルヴァー船長〕
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七六 折半直。――船では甲板当直は四時間交代であるが、午後四時から八時までは折半されて二時間交代に行われる。その間を折半直という。朝には折半直はないのだから、この語は原作者の誤りであろう。
七七 仕立屋が手前たちに相応の商売。――イギリスでは「仕立屋は九人で男一人前」という諺もあって、仕立屋が男らしからぬ商売として軽蔑されていたのである。
七八 クラウン貨幣。――王冠を刻した貨幣。銀貸で五シリングの価格であるから、相当大きなものである。直径一寸三分くらいもあった。
七九 「犬および殺人者は外に居るなり」。――聖書の最後の頁にあるヨハネ黙示録第二十二章第十五節の中にある句。
八○ 諺にもあります通り、食物にありつくのは…………。――「早起きの鳥は虫を捕える」という諺があるのである。わが国の「早起き三文の得」の意味の諺。
八一 船荷の宰領。――商船の航海中船荷の上に乗り添うて守り送る人。上乗《うわのり》とも言う。
八二 肩をすくめる。――軽蔑、冷淡、不快などの身振り。
八三 死んだ人たちが磨石のように…………。――新約全書マタイ伝第十八章第六節の中に「磨石をその頸に懸けられて海の深みに沈められん方‥‥」云々とある句から言ったのである。
八四 ダブル・ギニー金貨、…………。――「ダブル・ギニー金貨」は四十二シリングに当るイギリスの昔の金貨。「モイドー金貨はポルトガルの往時の金貨。「セクィン金貨」は昔のヴェニス共和国の金貨。
八五 スペイン領アメリカ。――往時、中央アメリカ及び南アメリカには、現在の諸国の独立する以前に、広大なスペイン領があった。現今でもそれらの地方ではスペイン語が行われている。
八六 銀の棒と武器と。――第六章「船長の書類」の中にある地図の裏の文句参照。
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底本:「宝島」岩波文庫、岩波書店
1935(昭和10)年10月30日初版第1刷発行
1956(昭和31)年6月30日第17刷発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
その際、以下の置き換えをおこないました。
「亦→また、既に→すでに、於いて→おいて、於ける→おける、甚だ→はなはだ、以て→もって、殆ど→ほとんど、度々→たびたび、漸く→ようやく、極く→ごく、傍→そば、暫く→しばらく、直ぐ→すぐ、真直→まっすぐ、何故→なぜ、殊に→ことに、更に→さらに、尤も→もっとも、勿論→もちろん、益々→ま
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