屋」のところで、私たちは駅逓馬車に乗り込んだ。私はレッドルースとでっぷり太った老紳士との間に挟み込まれた。そして、馬車は疾く動いていたし夜気は冷かったにも拘らず、私は最初からよほどうとうとしていて、やがて、宿駅から宿駅へと丘を上り谷を下りながら、ぐっすりと丸太のように眠ったに違いない。というのは、横腹を肱《ひじ》でつかれてようやく目を覚し、眼を開《あ》けて見ると、馬車は或る都会の街路の大きな建物の前に止っていて、夜はもうとっくに明けていたからである。
「どこですか?」と私は尋ねた。
「ブリストルさ。」とトムが言った。「降りるんだよ。」
 トゥリローニーさんは、スクーナー船での作業を監督するために、波止場のずっと下手にある宿屋に泊っていた。で、そこまで私たちは歩いて行かねばならなかったが、その途は埠頭に沿うていて、大小さまざまの、いろいろの艤装の、あらゆる国々の船が無数にいるそばを通ってゆくので、私の嬉しさは非常なものだった。或る船では、水夫たちが歌いながら作業をしていた。また或る船では、檣や帆桁などの、私の頭上高いところに、蜘蛛の巣ほどに細く見える索にぶら下っている人たちがいた。私は生
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