明かに盲《めくら》であった。そして年か衰弱のせいのように傴僂《せむし》になっていて、頭巾《ずきん》附の大きな古びたぼろぼろの水夫マントを着ているので、実に不恰好《ぶかっこう》な姿に見えた。私は生れてからあんな恐しい様子をした者を見たことがなかった。彼は宿屋から少し離れたところに止ると、声を張り上げて奇妙な単調な調子で、前に向ってだれにともなく言いかけた。――
「どなたか御親切な旦那さま、哀れな盲人《めくら》に教えてやって下さい。私はわがイギリスのために、ジョージ陛下万歳! 名誉の戦争に出まして、大事な眼をなくした者でございます。――私の今おりますのは、この国のどこでございましょう、何という処でございましょうか?」
「ここは黒丘《ブラック・ヒル》入江の『|ベンボー提督《アドミラル・ベンボー》屋』だよ、小父《おじ》さん。」と私が言った。
「声がしましたな、」と彼は言った。――「お若い方《かた》の声だ。どうか御親切なお若い方、私にお手を貸して、中へ案内して下さいませんか?」
私が手を差し出すと、今まで物言いのやさしかった、その怖しい、眼のつぶれた奴は、たちまちその手を万力《まんりき》のよう
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