前、言いに行くんじゃねえぞ。」
「だけど、その黒丸って何ですか、船長さん?」と私は尋ねた。
「それはね、呼出状さ。奴らが持って来たらお前に言ってやるよ。だが油断なく見張っててくれ、ジム。そうすりゃお前を相棒にして分けてやるからな、きっと。」
彼はそれからしばらく取りとめのないことを言い、その声はだんだん弱っていった。が、私が薬をやると、「船乗で薬を飲みたがるなんて奴あ己だけだ。」と言いながら、子供のようにそれを服《の》んでから間もなく、とうとうぐっすりと気絶したように寝入ってしまったので、私はそこを立去った。もし万事が無事にいっていたなら自分がどうしていたかということは、私にはわからない。恐らくは医師にすべての話をしてしまったことであろう。というのは、私は、船長があの打明け話をしたことを後悔して私を殺しはしまいかと思って、とても怖かったからである。しかし実際起ったのは、その晩父がまったく急に亡《な》くなったことで、そのために他の事は皆そっちのけになってしまった。私たちの当然な悲歎、近所の人たちの弔問、葬式の手配、その間にもしなければならない宿屋のすべての仕事、などでずっとひどく忙しく
前へ
次へ
全412ページ中32ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 直次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング