、彼は、酒の品評家のように、ちびりちびりと味いながらゆっくり飲み、その間も、あたりの断崖を見※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]したり店の看板を見上げたりしていた。
「これぁ便利な入江だ。」とようやく彼は言い出した。「この酒屋も気の利いた処《とこ》にあるな。客は多いかね、大将《てえしょう》?」
 父は、いや、残念ながら客はごく少くてどうも、と彼に言った。
「うむ、そうか、」と彼は言った。「じゃあ己《おれ》にゃ持って来いの泊り場所だ。おいおい、お前《めえ》、」と手押車を押して来た男に呼びかけて、「ここへ車をつけて己の箱をおろしてくんねえ。己はしばらくここに泊ることにするぜ。」と言い続けた。「己ぁあっさりした男でな。ラムと|卵かけ塩漬豚肉《ベーコン・アンド・エッグズ》さえあれぁいいんだ。そしてあそこのあの岬を通る船を見張ってるのさ。己を何と言ったらいいって? 船長と言って貰《もれ》えてえ。おお、なるほど、あれか、――そうれ。」と彼は三枚か四枚の金貨を閾《しきい》のところへ投げ出した。「そいつがすっかりなくなったら、そう言って来い。」と司令官のように厳《いかめ》しい顔をして言った。
 
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