血の色をちょっと拝見するよ。ジム、」と私に向って、「君は血を見るのが怖《こわ》いかね?」
「いいえ。」と私は答えた。
「よし、では、」と彼が言った。「金盥を持っていてくれ給え。」そう言って彼は刺※[#「月+各」、第3水準1−90−45]針を取って血管を切り開いた(註一五)。
 ずいぶんたくさん血が取られてから、船長はやっと眼を開《あ》けてぼんやりとあたりを見※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]した。最初は医師の顔がわかると、紛れもない顰《しか》め面《づら》をした。次に私が目に入ると、ほっとした様子だった。しかし突然顔色が変り、起き上ろうとしながら、叫んだ。――
「黒犬《ブラック・ドッグ》はどこだ?」
「黒犬《ブラック・ドッグ》なんぞはここにはおらんよ、君が自分で背負っている他《ほか》にはな。(註一六)」と医師が言った。
「君は相変らずラムを飲んでいたものだから、中風を起したんだ、私が君に言ってやった通りに。で、私は、ずいぶん厭ではあったが、君を墓から頭を先にしてひきずり出してやったのだ。ところで、ボーンズ君――」
「それぁ俺《わし》の名じゃねえ。」と彼は遮った。
「どうだっていい
前へ 次へ
全412ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 直次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング