しているのでしょう?」
「怪我だと? 馬鹿なことを!」と医師が言った。「あんた方《がた》や私と同様ちっとも怪我なんかしていませんよ。この男は中風を起したのだ、私が注意してやった通りにね。さあ、ホーキンズさんのおかみさん、あなたは早く二階の御主人のところへ行って下さい。そして、なるべくならこのことは御主人には話さずにな。私の方は、こいつのやくざな命《いのち》を助けるために一所懸命にやらねばならん。それからジムには金盥《かなだらい》をここへ持って来て貰おうね。」
 私が金盥を持って戻って来た時には、医師はもう船長の袖を切り開いて、大きな逞しい腕をまくりあげていた。その腕には数箇処に文身《いれずみ》がしてあった。「幸運あり」というのと、「順風」というのと、「ビリー・ボーンズのお気に入り」というのが、二の腕にごく巧みにはっきりと彫ってあった。それから、肩に近いところには、絞首台とそれにぶら下っている男とのスケッチがあり、なかなか生々《いきいき》と出来ていると私は思った。
「自分のことの予言だな。」と医師は指でその絵に触りながら言った。「さて、ビリー・ボーンズ君、というのが君の名前ならだが、君の
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