力で逃げ、船長が猛烈に追っかけてゆくのを見た。二人とも抜き放った彎刀を手にし、黒犬は左の肩からたらたらと血を出していた。ちょうど戸口のところで、船長はその逃げてゆく男を狙って最後の物凄い一撃を浴《あび》せかけたが、もし家《うち》のベンボー提督の大きな看板で妨げられなかったなら、その一撃は確かにその男を背骨まで切り下したことだろう。今でも看板の下側にその刀痕が残っている。
この一撃が果合《はたしあい》の終りであった。一度街道へ出ると、黒犬は、傷を負っているにも拘らず、一目散に走り逃げ、しばらくのうちに丘の縁の向うへ姿を消してしまった。船長はと言えば、彼は呆然としたように看板を見つめながら突っ立っていた。それから手で眼を何遍もこすり、やっと家の中へ引返して来た。
「ジム、」と彼が言った。「ラムだ。」そしてそう言った時に、少しよろめき、片手を壁にあてて身を支えた。
「怪我しましたか?」と私は叫んだ。
「ラムだ。」と彼は繰返して言った。「己はここから行かなきゃならん。ラムだ! ラムだ!」
私はラムを取りに走って行った。しかし、さっきから起ったいろいろのことですっかりあわてていたので、コップ
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