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だから、高い木が主《おも》な目標なのであった。今、私たちの真正面では、碇泊所は二百フィートから三百フィートまでの高さの高原で画られていて、その北は遠眼鏡《スパイグラース》山の傾斜した南の肩に接し、南の方へ向ってはまた隆起して、後檣《ミズンマスト》山と言われているごつごつした嶮岨《けんそ》な高地になっていた。この高原の頂には異った高さの松の樹がたくさん生えていた。ここかしこに、違った種数の松の樹が附近の樹々よりも正味四五十フィートも高く聳えているので、その中のどれがフリント船長のさした「高い木」であるかということは、その場所へ行って、羅針儀の示度で定めるより他はないのであった。
しかし、そういう訳ではあったけれども、ボートに乗っている連中はだれも彼も、まだ半分も海を渡らない先から、もう自分の好きな木を択り出していた。のっぽのジョンだけは肩をすくめて(註八二)彼等にそこへ行くまで待っておれと言った。
私たちは、シルヴァーの指図で、腕をあまり早く疲らせないようにと、ゆっくりと漕いだ。そしてずいぶん長い間舟に乗ってから、第二の川――遠眼鏡山の森の割目を流れ下っている川――の口に上陸した。そこから、左へ曲って、高原の方へ傾斜地を登り始めた。
初めのうちは、ねとねとした泥深い地面と、こんがらかっている沼地の植物とのために、進むのがなかなか捗らなかった。けれども、だんだんと山は嶮《けわ》しくなりかけ、足の下も石がちになって来て、樹木もその性質が変り、もっと間が開けて生えているようになって来た。実際、私たちが今近づいているのは島でも非常に気持のよい処であった。香《かおり》の強い金雀花《えにしだ》や、花の咲いている多くの灌木が、ほとんど草に取って代っていた。緑色の肉豆蒄《にくずく》の木の茂みが、赤い幹をして広い影をつくっている松の樹と共に、ここかしこに散在していた。そして肉豆蒄の芳香は松の樹の香気とまじっていた。その上に、空気は澄んでいてすがすがしく、強い日光の中では、このことは素晴しく爽快に感じられた。
一行は扇の形に広く拡がって、大声をあげたりあちこちに跳んだりして進んだ。その真中あたりに、他の者たちとは大分|後《おく》れて、シルヴァーと私とがついてゆき、――私は例の綱に繋がれ、彼は滑り易い砂礫の上をひどくはあはあ喘ぎながら登っていた。実際、時々私は彼に手を貸してやらねばならなかった。でなければ彼は足を踏み外して山を転《ころ》げ落ちたに違いない。
こうして半マイルばかり進んで、高原の頂上に近づいていた時に、一番左の方にいた男が、おじけたように大声で喚き出した。続けざまに幾度も叫び声を立てたので、他の者もその男の方向へ走り出した。
「宝をめっけたはずぁねえよ。」とモーガン爺が、右の方から私たちのそばを急いで通り過ぎながら、言った。「あれぁずっとてっぺんにあるんだからな。」
実際、私たちもその場所へ行ってみると、それはまったく違ったものだった。かなり大きな一本の松の樹の根もとに、緑の蔓草に絡まって、その蔓草は小さい骨を幾分か持ち上げてさえいたが、人間の骸骨が、衣服の屑片と共に、地面の上にあったのである。だれも彼もちょっとの間はぞっとしたと私は思う。
「こいつは船乗だったんだぜ。」とジョージ・メリーが言った。彼は、他の者よりは大胆だったので、骸骨のずっと近くへ行っていて、衣服の襤褸《ぼろ》を調べていたのだ。「ともかく、これぁ船乗の服だ。」
「そうともさ、そりゃ多分そうだろうとも。」とシルヴァーが言った。「こんな処《とこ》に僧正さまもめっかるめえからな。だが、この骸骨の寝方はどうだい? これぁ自然じゃあねえな。」
実際、もう一度見直すと、その死体が自然の姿勢になっていると想像するのは不可能であるように思われた。多少乱れている(それは、多分、鳥がその死体を啄んだためになったのか、あるいはだんだんと遺骸を取巻いて来た蔓草が徐々に生い茂ったためになったのであろう)のを別にすれば、その男は完全にまっすぐに横っていて、――両足は一つの方向を指し、両手は、水へ跳び込む人の手のように頭の上へ伸ばして、ちょうどその反対の方向を指しているのであった。
「俺のぼけた馬鹿頭にも一つ考えついたことがあるよ。」とシルヴァーが言った。「ここに羅針儀がある。あすこに骸骨《スケリトン》島のてっぺんが歯みてえに突き出てる。ちょいと方位を取ってみてくれろ、その骸骨の向いている方のな。」
それをやってみた。死体はまっすぐに島の方向を指していたし、羅針儀は正しく東南東微東を指示した。
「そうだろうと思ってた。」と料理番が叫んだ。「これぁ指針だよ。この線をまっすぐに行くと北極星と結構なお宝があるって寸法さ。だが、畜生! フリントのことを思うと身内《みうち》がぞくぞ
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