どうしようとしていなさるのか、どうして丸太小屋を出なさったのか、どうしてあの海図をわっしに下さったのか、わっしにゃわからねえ。わかるもんですかい? それでも、わっしは眼をつぶって、望みの持てる言葉一つも聞かされずに、あんたの言いつけ通りにして来たんですぜ! だが、いや、今のはひど過ぎる。もしあんたが思ってなさることをきっぱりわっしに言って下さらねえんなら、ちょいとそう言って下せえ。そうすりゃわっしだって成行にまかせますから。」
「いやね、」と医師は考えこみながら言った。「私にはそれ以上言う権利がないのだ。それは私の秘密じゃないんだからなあ、シルヴァー。でなけりゃ、きっと、お前に話してやるんだが。しかし私は自分の言えるだけのことをお前に言うとしよう。一歩だけ先へ出て言うのだ。でないと、船長に叱られるからねえ、きっと! 第一に、私はお前にちっとばかり望みを持たせてやろう。シルヴァー、もし私たちが二人ともこの狼の罠から生きて出られたら、私は、偽誓だけはしないが、自分の全力を尽して、お前を救ってやろう。」
シルヴアーの顔は晴々とした。「先生、あんたがわっしの母親《おふくろ》でも、きっと、それ以上のことは言えますまいよ。」と彼が叫んだ。
「まあ、それが私の第一の譲歩だ。」と医師は言い足した。「第二のは一つの忠告だがな。その子を始終お前のすぐそばにおいて、もし助けの要《い》る時には、おういと大声で呼んでくれ。そしたら私はお前に加勢しに行ってやろう。私がでたらめを言っているかどうかは、それでお前にもわかるだろう。じゃ、さようなら、ジム。」
そしてリヴジー先生は柵越しに私と握手し、シルヴァーに頷いて会釈して、足早に森の中へ入って行った。
第三十一章 宝探し――フリントの指針
「ジム、」とシルヴァーは私たち二人だけになると言った。「もし己がお前の命を救ったんなら、お前は己の命を救ってくれたんだ。それは忘れねえよ。先生がお前に逃げろって合図したのを己は見たんだ、――この眼尻でな、見たとも。それから、お前がいやですて言うのも見たぜ、聞くようにはっきりとね。ジム、これで己は君に一つ借りが出来たよ。あの攻撃がしくじってから此方己ぁ初めて望みが持てたんだ。それも君のお蔭さ。ところで、ジム、己たちはこれからあの宝探しに行かなくちゃならんのだがね、これも封緘命令で、行ってみるまではわからねえという奴でな、己ぁ気が進まねえんだ。で、お前と己とは、言わば互《たげえ》に持ちつ持たれつで、しっかりくっついていなきゃいけねえ。そしてどんなことがあろうと首が助かることにしようぜ。」
ちょうどその時、一人の男が焚火のところから朝飯の支度が出来たぞと私たちを呼んだ。それで、私たちはやがて砂地のここかしこに坐って堅パンとフライにした塩漬肉とを食べ始めた。彼等は牛を一頭丸焼するに適当なくらいの火を焚いてあった。そしてそれが今非常にかっかと盛んに燃えているので、風上からようやくその火に近づけるだけで、その方からでも用心をしなければ近づけなかった。それと同じ浪費的な気持で、彼等は食べ切れる三倍もの肉を料理したようであった。そして一人の奴は、訳もなくげらげら笑いながら、残った分を焚火の中へ投げ込んだ。火は、こういう珍しい燃料を抛《ほう》り込まれて、ますます盛んにごうごう音を立てて燃えた。私は今までにあんなに明日《あす》のことを気にかけない人たちを見たことがない。その日暮しというのが彼等のやり方を説明し得る唯一の言葉である。そして、彼等は小競合にはすこぶる大胆ですぐにけりをつけてしまうけれども、食物を浪費したり歩哨が眠ったりするのでは、とても永びく戦争などには全然不適当だということが私にはわかった。
シルヴァーでさえ、肩の上にフリント船長をとまらせて、盛んに食べながら、彼等の思慮のなさに対して一言の非難もしなかった。そして、彼がそれまでにこの時ほどの狡猾さを示したことは一度もないと私は思ったので、そのことは私を一層驚かせたのだ。
「そうさ、兄弟、」と彼は言った。「|肉焼き台《バービキュー》がいてこの頭でもってお前たちのために考えてやるてえのは、お前たちにゃ仕合せなことだぜ。己はほしかったものを手に入れたんだ、そうとも。なるほど、奴らは確かに船を持っている。どこに持ってるのか、己ぁまだ知らねえ。だが、己たちは宝を見つけせえすりゃ、方々跳び※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]って探しあてるさ。そうなれぁ、兄弟、ボートを持っている己たちの方が勝ちだと思うな。」
彼は、口一杯に熱い塩漬豚肉を頬張りながら、こんな風にしゃべり続けた。こうして彼は皆の希望と信頼とを回復した。同時に自分の希望と自信とをも取戻したのだろうと思う。
「この人質のことを言えばね、」と彼は話し続
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