下でぶつぶつ言いながら坐っていた。岸には河口のすぐ近くにあの二艘の快艇《ギッグ》が繋いであって、両方ともに一人ずつ残って坐っていた。その中の一人は「リリバリアロー(註五八)」を口笛で吹いていた。
何もせずに待っていることはたまらなかった。それで、ハンターと私とが情報を求めに小形端艇《ジョリボート》に乗って上陸しようということになった。
前の快艇はその漕手らの右の方に曲っていたが、ハンターと私とは、海図にある柵壁の方向へと、真直《まっすぐ》に漕いで行った。ボートの番をするのに残された二人の者は、吾々の現れて来たのにあわて出したようだった。「リリバリアロー」もぴたりと止んだ。そして両人がどうしたらいいかと相談しているのが見えた。もし彼等がシルヴァーのところへ知らせに行ったなら、すべては違った成行になったかも知れなかった。が、彼等は何か命令されていたのであろう、元のところに静かに坐って、また「リリバリアロー」をやり出した。
海岸にはちょっと出張った処があって、私はそこを彼等と吾々との間にするように舟を進めた。そういう訳で、吾々は上陸しない先にもう快艇が見えなくなっていた。岸に着くと私は舟から跳び出し、暑さを避けるのに大きな絹のハンケチを帽子の下に入れ、安全のためにちゃんと火薬を填めた一対のピストルを持って、ほとんど走るようにして進んだ。
百ヤードと行かないうちに、柵壁に着いた。
それはこういう風になっていた。清水の泉が一つの円い丘のほとんど頂上のところに湧き出ていた。さて、この丘の上に、その泉をも取り入れて、堅牢な丸太小屋が造ってあり、危急の場合には四十人くらいの人数を収容出来たし、四方とも壁に小銃射撃が出来るように銃眼を穿ってあった。小屋の周り中は樹木を伐り払って広い空地にしてあり、その上にまた、高さ六フィートの|杙囲《くいがこい》をめぐらしてあった。この杙囲には開き戸もなければ明《あ》いている箇所もなく、非常に堅固なので、時間や勢力をかけずには引き倒すことが出来ないし、相当間隔を置いてあるので、包囲者は身を隠すことも出来なかった。この丸太小屋の中にいる人々の方は、あらゆる点で包囲者に対して有利であった。静かに隠れていて、敵を鷓鴣《しゃこ》のように射撃することが出来るのだ。ただ食糧があってよく見張りをしていさえすればよかった。まったくの奇襲を受けるのでない限りは、一聯隊の敵に対してもその場所を守ることが出来たかも知れなかった。
私に特に気に入ったのは、泉であった。吾々はヒスパニオーラ号の船室に十分よい場所を占めていて、武器と弾薬も、食べる物も、種々の上等の酒も豊富にあったけれども、一つだけ手抜りがあった。――水がなかったのである。私がそのことを考えている時、断末魔の人間の悲鳴が島中に響きわたった。私は非業の死はこれが初めてではない。――かつてカムバランド公爵(註五九)閣下に仕えていたことがあり、フオンテノイ(註六〇)では自分も負傷したことがある。――が、この時は心臓がどきんとした。「ジム・ホーキンズがやられた。」と真先に思ったのである。
昔軍人だったということは有難いことであるが、しかし医者であるということはなおさらである。もう一刻もぐずぐずしてはいられない。そこで私は直ちに決心をし、時を移さず海岸へ引返して、小形端艇に跳び乗った。
好運にもハンターは上手な漕手だった。吾々のボートは水を切って進み、間もなく横附けになったので、私はスクーナー船に上って行った。
みんなは、当然のことながら、すっかりどぎまぎしていた。大地主は敷布《シーツ》のように蒼白な顔をして坐っていて、自分がみんなをこんな災難に陥れたことを考えていた。善良な人だ! 六人の前甲板の水夫の中の一人も大地主と同じくらいの顔色をしていた。
「こんなことには初めての男が一人いますよ。」とスモレット船長は、その男の方へ頭を動かしながら、言った。「彼《あれ》はあの悲鳴を聞いた時には、今少しで気絶しそうでしたよ、先生。ちょっと舵を動かしてやれば、あの男は我々の味方になりましょう。」
私は自分の計画を船長に話した。そしてそれを実行する細かい手筈《てはず》を二人で決定した。
吾々は、レッドルース老人に装弾した銃を三四挺と身を護るための敷蒲団《マットレス》を一枚与えて、船室と前甲板下水夫部屋《フォークスル》との間の廊下に立たせた。ハンターはボートを船尾窓の下に※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]し、ジョイスと私とはそのボートに火薬の鑵や、銃や、堅《かた》パンの嚢や、豚肉の小樽や、コニャックの樽や、私には何より大事な薬箱などを積み込み始めた。
その間に、大地主と船長とは甲板に留《とど》まり、船長は舵手《コクスン》に声をかけた。船に残っている者の中の頭立《かしら
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