持って来てくれ、「一本脚の船乗」に気をつけておれという例の命令を繰返した。
その人物がどんなに私の夢を悩ませたかは、言うまでもないくらいである。嵐の夜々、風が家全体を揺り動かし、激浪が入江や断崖に轟きわたる時には、その男がいろいろの姿で、またいろいろの悪魔のような形相をして現れるのであった。時には脚が膝のところで切れており、時には股《もも》のつけ根から切れていた。また時には、もとからその一本脚しかなくて、それが胴体の真中についているという怪物であることもあった。その男が生垣《いけがき》や溝を跳び越えてぴょんぴょん跳びながら私を追っかけて来るのは、中でも一番怖しい悪夢であった。で、結局、私は毎月四ペンスの金《かね》を貰うためにこんな忌わしい妄想に悩まされて、かなり割が合わない訳だった。
しかし、私はその一本脚の船乗のことを思うとそんなに脅かされはしたけれども、船長その人には彼を知っている他のだれよりもずっと怖《こわ》くはなかった。彼は頭がもたないほどのたくさんのラムを飲む晩もあったが、そういう時には、時としては、坐りこんで例のいやな古い奇怪な船唄を歌い、だれをも念頭に置かなかった。が「時には、みんなにぐるりと杯をゆきわたらせて、ぶるぶるしている一座の者すべてに、無理に自分の話を傾聴させたり、自分の歌う後をつけて合唱させたりすることもあった。「よいこらさあ、それからラムが一罎《ひとびん》と」で家が家鳴《やな》りするのを、私はたびたび聞いたことがある。近所の人々は皆びくびくしながら一所懸命に歌う仲間入りをし、目をつけられないようにと銘々が互に競って大声を出して歌ったのだ。なぜなら、こういう発作の時には彼はこの上なく高飛車に出たからで、みんなに黙れと言ってテーブルを手でぴしゃりと打つ。何か尋ねるとかっと癇癪を起したり、時には何も尋ねないからと言って、一座の者が自分の話を聞いていないのだときめこんで、怒ったりする。そして、自分が眠くなるまで飲んで寝床へよろめきこむまでは、だれ一人も宿屋を立去らせようとしないのであった。
彼の話は中でも最も人々を怖がらせたものであった。それは実に恐しい話だった。首絞《くびし》めや、板歩かせ(註八)や、海上の暴風雨《あらし》や、ドゥライ・トーテューガズ(註九)や、スペイン海(註一〇)での乱暴な所業やそこの土地土地などの話だった。彼自身の言う
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