を待っために腰を下して坐り、堅パンをたらふく食べた。その夜は私の目論《もくろみ》には万に一つという誂え向きの夜だった。霧はその時は空をすっかり蔽うていた。昼の名残《なごり》の光がだんだん淡くなってまったく消えてしまうと、真の暗闇《くらやみ》が宝島を包んだ。そして、とうとう、私が革舟を担《かつ》いで、夕食を食べたその凹地《くぼち》から躓《つまず》きながら手探りして出た時には、その碇泊所全体で目に見える箇所はたった二つしかなかった。
 一つは、岸の大きな焚火で、そのそばに敗北した海賊どもが湿地で酒宴を開いていた。もう一つは、暗闇の中のほんの朦朧たる明りで、碇泊している船の位置を示しているものだった。船は退潮《ひきしお》につれてぐるりと※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]っていて、――船首が今私の方へ向いており、――船中の唯一の灯は船室にあったのだ。それで、私に見えたのは、船尾の窓から流れ出る強い光線が霧に反映しているものに過ぎなかったのである。
 退潮はすでにしばらく続いていたので、私は長い一帯のじくじくした砂地を徒渉しなければならなかった。そこでは何回も踝《くるぶし》の上までもずぶずぶと沈んだ。それからやっと退《ひ》いていっている水の縁のところまで来たので、少し水の中へ入って行って、多少力を出して機敏に革舟を竜骨《キール》のところを下にして水面に浮べた。

     第二十三章 退潮《ひきしお》が流れる

 この革舟《コラクル》は――それを使わない前から十分わかっていたが――私くらいの背や重さの人間にはごく安全なボートで、荒海でもふわふわと浮くし敏捷に動いた。しかし、操縦するにはこの上もなくひねくれた偏屈な舟だった。どうやってみても、いつも風下へばかり流れるし、ぐるぐるぐるぐる※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]るのがそいつの一番得意の手だった。ベン・ガンでさえあの舟が「その癖がわかるまでは扱いにくい」奴だったということを認めている。
 無論、私にはその癖がわかっていなかった。その舟は私の行かねばならぬ方角以外のあらゆる方向へぐるぐる※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]った。大抵の時は横向になっていたので、潮《しお》がなかったなら私は到底船に着けなかったろうと思う。幸運にも、私がどう櫂を漕いでいても、潮は舟を絶えず押し流していた。そしてちょうど行手に
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