きりと見下されて、そこにのっぽのジョン・シルヴァーともう一人の船員とが向い合って話しながら立っていた。
太陽が彼等を全身照していた。シルヴァーは帽子をそばの地面の上に投げ出していて、彼の暑気でてらてらしている、大きな、すべすべした、色白の顔は、哀願するように相手の男の顔に向けられていた。
「兄弟《きょうでえ》、」と彼は言っていた。「これもお前《めえ》を尊敬してるからのことだぜ、――尊敬だぞ、違《ちげ》えねえぜ! もしお前が好きでなけりゃあ、己がこんなとこまで来てお前にわざわざ言って聞かせてやると思うか? もうすっかりきまってることだ、――今更お前がどうにもこうにも出来やしねえ。己がこう言ってるのもお前の首をつなぐためなんだ。で、もしあの乱暴な奴らのだれかがこのことを知ったら、己ぁどうなるか、トム、――え、おい、どうなると思う?」
「シルヴァー、」と相手の男が言った。――そして私には、彼が顔を真赤にしているばかりではなく、鴉のように嗄《しゃが》れた声を出し、またその声がぴんと張った索のように震えているのがわかった。――「シルヴァー、」と彼は言った。「お前は年寄だ。そして正直者だ。ともかくそういう評判を取ってるんだ。それにまた、たくさんの貧乏な水夫たちの持っていねえほどの金《かね》も持っている。それから胆っ玉もある、確かにな。それだのに、お前はあの馬鹿どもの仲間にひきこまれようって言うのかい? そんなお前じゃねえ! 己はそんなことをするくれえなら片手をなくしたっていい。それぁ神様が己を照覧していらっしゃるくれえ確かにだ。もし己が自分の義務に背いたら――」
と、その時突然、彼の言葉は或る叫び声で遮られた。私は実直な船員を一人見つけたのであったが、――さて、今、ちょうどそれと同時に、もう一人の実直な船員の知らせがわかって来たのである。沼のずっと遠くで、突然、怒った叫び声のような音声が起ったかと思うと、それに続いて別の声がし、それから恐しい長く引いた悲鳴が一声聞えた。遠眼鏡山の岩は幾度となくその悲鳴を反響した。沼の鳥の群はことごとく一斉にぶうんと羽音を立てて再び飛び立ち、天を暗くした。そして、永い間その死のをめき声がなおも私の頭の中で鳴り響いていた後に、ようやく寂寞が再びあたりを領し、ただ、また降りて来る鳥のさわさわという羽音と、遠くの大浪のどどうっと響いて来る音とが、午
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