い茂った広い湿地の縁まで達していた。その湿地を近い方の小川が滲み込みながら進み、碇泊所へ流れ込んでいた。沼は強烈な太陽の光の中に湯気を立てていて遠眼鏡《スパイグラース》山の輪廓はもやもやとして震えて見えた。
突然、蒲の間がざわざわし始めた。野鴨が一羽ぐわあと鳴いて飛び立ち、続いてまた一羽また一羽と、間もなく沼の全表面の上には鳥の大群が空中に啼き叫びながら輸を描いて飛び※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]った。私はすぐに、船の仲間のだれかが湿地の縁に沿うて近づいて来たのに違いないと判断した。果して私の思った通りだった。間もなく、ずっと遠くに低い人声《ひとごえ》が聞え、なおも耳を傾けていると、それがだんだん大きく近くなって来た。
それを聞くと私は非常に怖《こわ》くなって、一番近くの鮮色樫のこんもりしている下へ這い込んで、耳をすましながら、小鼠のように黙って、そこにしゃがんでいた。
別の声が返事をした。すると初めの声が、それはシルヴァーの声だということが私にはその時わかったが、また話し始めて、永い間|滔々《とうとう》としゃべり続け、ただ時々別の声が口を出すだけだった。その音調から察すれば、彼等は熱心に、またほとんど烈しいくらいに、話し合っているに違いなかった。しかし、はっきりした言葉は一つも私の耳に入らなかった。
とうとうその話し手たちは立ち止ったらしかった。そして多分坐ったようであった。というのは、彼等がそれ以上近づいて来なくなったばかりではなく、鳥の群もだんだん静かになりかけ、再び沼地の自分たちの場所に下り始めたからである。
そして今私は自分の仕事を等閑《なおざり》にしていることに気がついて来た。無鉄砲にもあの兇漢どもと一緒に上陸したからには、いくら何でも自分の出来ることは彼等の相談を窃《ぬす》み聞きすることだ、そして自分の明白な義務は、都合よく低く這っている樹々の下に隠れて出来るだけ近くへ忍び寄ることだ、と思い始めたのだ。
話し手のいる方角は、彼等の声の響だけではなく、数羽の鳥がまだその闖入者《ちんにゅうしゃ》たちの頭上に驚いて舞っている様子でも、かなり精確にわかった。
四つん這いになって這いながら、私は彼等の方へそろそろと、しかし脇目もふらずに進んで行った。とうとう、木の葉の隙間へ頭を上げると、沼のそばに、樹木が密に生えている小さな緑の谷がはっ
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