ち仏頂面を直して、万歳を叫んだからで、その声は遠くの山に反響して、鳥がもう一度碇泊所の周りに飛び立ってがあがあ鳴き騒いだ。
 船長は彼等の邪魔になっているようなへまなことはしなかった。彼は、上陸隊を取纏めることはシルヴァーに任せて、すぐに身を隠した。彼がそうしたのはよかったと私は思う。もし船長が甲板にいたなら、もはや現在の事態を知っていないような風をしていることさえ出来なかったろう。事態は白昼のように明かだったのだ。シルヴァーは船長で、有勢な叛徒の船員を部下に有しているのだ。実直な水夫というのは――そして私は間もなく船中にそういう者たちがいるという証拠を知ることになったのであるが――ごく愚鈍な連中だったに違いない。いや、もっと正確に言えば、ほんとうのところはこうではなかったろうかと思う。すなわち、発頭人どもの示す手本によってすべての船員が不平を抱くようになったので、ただ、或る者はその程度がひどく、或る者はそれが少かったのだ。そして、少数の者は、大体善良な連中なので、それ以上になりもしなければさせられもしなかったのであろう。ぶらぶらしていてずるけることと、船を奪って罪もない多くの人を殺すこととは、まったく別のことなのである。
 とにかく、やがて上陸隊が編成された。六人のものが船に留《とど》まることになり、シルヴァーをも含めた残りの十三人が乗り込み始めた。
 その時のことだった、私たちの生命を救うによほど与《あずか》って力のあったあの向う見ずな考えの最初のものが、私の頭に思い浮んだのは。シルヴァーが六人を残してゆくとなれば、味方が船を占領してそれを操縦して戦うことが出来ないことは明かであった。また、たった六人だけ残されるのだから、船室の連中が現在のところ私の助力を必要としないことも同じく明かだった。私は上陸しようと直ちに思いついたのだ。で、すぐさま舷側を滑り下りて、近い方のボートの艇首座に身を丸くしてちぢこまった。と、ほとんど同時にそのボートは押し出された。
 だれも私に目を留める者がなく、ただ舳《へさき》の漕手が「お前かい、ジム? 頭を低くしていろよ。」と言っただけだった。しかし、シルヴァーは、もう一艘のボートから、目ざとくこっちを見て、それが私かどうかを大声で尋ねた。で、その瞬間から私は自分のしたことを後悔し始めた。
 船員たちは渚まで競漕したが、私の乗っていたボー
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