そして、他に何もすることのない時には、他の者の不平を隠そうとでもするように、次から次へと唄を歌い続けた。
その陰鬱な午後のあらゆる陰鬱な事柄の中でも、のっぽのジョンのこの一目瞭然たる心遣いは最も気味悪く思われた。
私たちは船室で会議を開いた。
「さて、」と船長が言った。「もし私が構わずにもう一度命令を出そうものなら、全船の者がたちまちにどっと私たちを襲って来るでしょう。御覧の通り、こういったような有様です。私に乱暴な返事をしましたでしょう? ところで、私が何か言い返せば、たちまち槍が飛んで来るでしょうし、何も言わなければ、シルヴァーはこれには何か訳があるのだと悟るでしょう。そうなれば万事休すです。そこで、頼りになる人間がたった一人だけおります。」
「で、それはだれです?」と大地主さんが尋ねた。
「シルヴァーです。」と船長が答えた。「あいつはあなた方や私と同様に一所懸命に揉み消そうとしています。これはちょっとした不平です。あいつは機会さえあれば間もなく奴らを説いてそれを止めさせましょうよ。で、私の提議しますのは、奴にその機会を与えようということなんです。水夫たちに午後の上陸を許してやろうじゃありませんか。もし彼等がみんな行けば、私たちはこの船を操縦して戦いましょう。もし彼等が一人も行かなければ、その時は、私たちは船室《ケビン》を守るのです。神が正しき者を護って下さいますように。もし何人かが行けば、よろしいですか、シルヴァーは奴らをまた小羊のようにおとなしくして船へつれて来ますよ。」
そういうことに決定された。弾丸を籠めたピストルが確実な味方の者全部に配られた。ハンターと、ジョイスと、レッドルースとは秘密を打明けられたが、それを聞いても、私たちの予期していたよりも驚きもしなかったし元気も盛んだった。それから、船長は甲板へ行って船員に言い渡した。
「諸君、」と彼は言った。「今日は暑くて、みんな疲れていて元気がない。一度上陸しても別にさしつかえはあるまい、――ボートもまだ揚げてないことだし。君たちはあの快艇《ギッグ》に乗って、何人でも好きなだけ午後中上陸してもよろしい。日没《ひのいり》の半時間前に砲を撃《う》って知らせる。」
その愚かな奴らは陸へ上るや否や宝に蹴躓《けつまず》いて向脛《むこうずね》をへし折るくらいに思っていたに違いない。というのは、彼等はみんなたちま
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