、言葉の合間合間にパイプをぱっぱっと吸いながら、前の通りに話し続けた。船長はしばらくの間彼を睨みつけ、それからもう一度手でぴしゃりと敲いて、さらに強く睨み、とうとうひどい野卑な罵り言葉を吐き出した。「おい、黙れ、野郎ども!」
「君は私《わたし》に言っているのかね?」と医師が言った。そしてその悪党が、また罵り言葉で、そうだと言うと、「私はたった一|事《こと》君に言っておくことがあるがね、」と医師は答えた。「それは、もし君が相変らずラムを飲み続けていると、この世から間もなくごく下劣なならず者が一人消え失せるだろうということだ!」
老人めの激怒は恐しいものだった。彼は跳び立って、水夫用の摺込ナイフをひき出して刃を開き、それを掌にのせて振り動かしながら、医師を壁に突き刺してやると脅しつけた。
医師は身動きさえもしなかった。前の通りに肩越しに振り向いて、同じ調子の声で、彼に話しかけた。室中の者に聞えるようにと幾らか高くはあったが、しかしまったく落着き払ったしっかりした声だった。――
「そのナイフをすぐさまポケットにしまわぬと、私は名誉にかけてお前をきっと次の巡回裁判で絞首《しめくび》にしてやるぞ。」
それから二人の間に睨み合いが始まった。が、船長の方が間もなく降参し、武器を収めて、負けた犬のようにぶつぶつ言いながら、再び自分の席に坐った。
「ところでね、」と医師は続けて言った。「私の区にそういう奴がいるとわかったからには、私はこれからしょっちゅうお前に気をつけているから、そのつもりでいるがいい。私は医者だけじゃない。治安判事もやっているのだ。で、お前に対するちょっとした告訴でも握ったが最後、それがただ今夜のような無作法のためであったにしろ、お前をひっ捕えさせてここから追っ払わせることにしてやるからな。これだけ言っておく。」
それから間もなくリヴジー先生の馬が戸口のところへ来たので、先生はそれに乗って帰って行った。が、船長は、その晩も、またそれから後の幾晩も、黙っておとなしくしていたのであった。
第二章 黒犬《ブラック・ドッグ》現れて去る
この後遠からず、私たちにとうとう船長を厄介払いしてくれたあの不可思議な出来事の最初の事件が起ったのである。もっとも、その出来事というのは、だんだんとわかる通り、船長に関することをすっかり厄介払いしたという訳ではないので
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