とも口を利いたこともなく、その人たちと口を利くのも大概はラムに酔った時だけだった。例の大きな船員衣類箱は私たちの中のだれ一人も開けてあるのを見た者はかつてなかった。
 彼は一度だけ逆《さから》われたことがあった。それはもう彼の末期に近い頃で、私の父が死病に罹って病勢がよほど進んでいる時のことだった。リヴジー先生が或る日の午後遅く父を診《み》に来て、母の出したちょっとした夕食をとり、「ベンボー屋」には厩舎《うまや》がなかったので、村から馬が迎えに来るまで一服やろうと談話室へ入って行った。私は先生の後からついて入ったが、雪のように白い髪粉《かみこ》をつけ(註一二)、きらきらした黒い眼をした、挙動の快活な、品のよい立派なその医師と、粗野な田舎の人々、就中《なかんずく》、ラムが大分※[#「廴+囘」、第4水準2-12-11]って、テーブルに両腕を張って腰掛けている、垢じみた、鈍重な、酔眼朦朧たる、ぼろぼろ着物の案山子《かかし》みたいな例の海賊君との対照が、目に止ったことを覚えている。突然、彼は――というのは船長のことだが――あの相も変らぬ唄を歌い出した。――

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「死人箱にゃあ十五人――
  よいこらさあ、それからラムが一罎《ひとびん》と!
 残りの奴は酒と悪魔が片附《かたづ》けた――
  よいこらさあ、それからラムが一罎と!」
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 初め私は「死人箱《しびとのはこ》」というのは二階の表側の室にある彼のあの大きな箱のことだと思っていて、それが私の悪夢の中では例の一本脚の船乗のこととこんがらかっていたものだった。しかしこの時分には私たちは皆とっくにその唄に特別の注意を払わなくなっていた。で、それは、その晩、だれにも珍しくはなかったのだが、リヴジー先生だけには初めてで、先生にはあまりよい感じを起させなかったのを私は見て取った。というのは、先生はいかにも腹を立てた顔でちょっとの間見上げたからで、それから植木屋のテーラー爺さんにリューマチスの新療法についての話を続けた。とかくしているうちに、船長は自分の歌でだんだんと元気づいて来て、とうとう前のテーブルを手でぴしゃりと敲いた。黙れ――という意味であることを私たちみんなが知っているやり方だった。みんなの話し声はぴたりと止んだが、リヴジー先生の声だけは別であった。彼は、はっきりと穏かにしゃべり
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