、乗客たちの大長靴もその脇に沿うてぴしゃりぴしゃりと進んで行った。馬車が止る時には彼等は止り、それとぴったりくっついていた。もし、その三人の中の誰でも一人が、他の者に、霧と闇との中へ少し先に歩いて行こうではないかと言い出すような、大胆なことをしようものなら、彼は自分を追剥としてたちどころに射殺されるようにするようなものであったろう。
 最後の疾駆で馬車は丘の頂上に達した。馬はまた息《いき》をつぐために立ち止り、車掌は下りて来て、下り坂の用心に車輪に歯止《はどめ》をかけ、乗客を入れるために馬車の扉《ドア》を開《あ》けた。
「しっ! ジョー!」と馭者は、馭者台から見下しながら、警告するような声で叫んだ。
「何だい、トム?」
 彼等は二人とも耳をすました。
「馬が一匹|緩駈《ゆるがけ》でやって来るぜ、ジョー。」
「いや[#「いや」に傍点]、馬が一匹|疾駈《はやがけ》でだよ、トム。」と車掌は答えて、扉《ドア》を掴んでいる手を放し、自分の席へひらりと跳び乗った。「お客さん方! よろしいですか、皆さん!」
 大急ぎでこう頼むと、彼は喇叭銃に撃鉄をかけ、撃つ身構えをした。
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