づれ》の肉眼に対してと同様に、彼等の心眼に対しても、ほとんど同じくらいたくさんのものを纒って自分を隠していた。その頃の旅人は、ちょっと知り合っただけで打解けることをひどく嫌っていたのである。というのは、道中で逢う人間は誰であろうと、それが追剥か、追剥とぐるになっている者であるかもしれなかったからである。その追剥とぐるになっているということなら、何しろ、宿駅★という宿駅、居酒屋という居酒屋には、亭主から一番下っぱの怪しげな厩舎係までにわたって、「首領《キャプテン》」の手当を貰っている者が誰かしらいるという時代では、それはいかにもありそうなことなのだ。そんなことをドーヴァー通いの駅逓馬車の車掌が腹の中で思ったのは、一千七百七十五年の十一月のその金曜日の夜、シューターズ丘《ヒル》をがたがた登りながらのことで、その時、彼は馬車の後部にある自分だけの特別の台に立って、足をどんどんと踏み、自分の前にある武器箱に目と片手とを離さずにいた。その武器箱の中には、彎刀《わんとう》を一番下にして、その上に七八挺の装薬した馬上拳銃が置いてあり、それの上に一挺の装薬した喇叭銃が載せてあったのだ。
 このドーヴァ
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