誇りとし、その暗いのを誇りとし、その不体裁なのを誇りとし、その勝手の悪いのを誇りとしているという精神的の特質でも、それは古風な場所であった。彼等は自分の銀行が狭くて暗くて不体裁で勝手の悪い点で際立っていることを自慢さえしていて、もしそれがこれほどひどくなかったならば、銀行の品格はそれだけ低くなるだろうという、明確な信念に燃えていた。これは決して消極的な信念ではなくて、もっと便利な営業所に対して彼等が閃かす積極的な武器であった。テルソンは(と彼等は言うのだった)何もゆとりなどを必要としない。テルソンは何も明りなどを必要としない。テルソンは何も装飾などを必要としない。ノークス商会には必要かもしれぬ。スヌークス兄弟商会には必要かもしれぬ。だが、テルソンには、有難いことには! だ――。
 こういう社員は誰でも、テルソン銀行を改築しようなどという問題を持ち出そうものなら、自分の息子でも勘当したことであろう。この点ではその銀行はこの国とよほど似ていた。この国は、永い間非常に非難のあった、しかし品格だけはますます備わって来た法律や慣習を改善しようと言い出した息子たちを、はなはだしばしば勘当したのだか
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