す望みのない昏睡状態に陥って、とうとう死んでしまったと考えられた。天気は暖かであった。そして彼は無作法にもあわただしく公共墓地に埋葬された。葬式は木曜日に行われたが、その次の日曜日、墓地の内はいつものとおり墓参者でたいへん混雑していた。ところが正午ごろ一人の農夫が、その士官の墓の上に腰を下ろしていると、ちょうど下で誰かがもがいてでもいるように地面が揺れるのをはっきりと感じた、と言いたてたので、たいへんな騒ぎが起った。初めは誰もほとんどこの男の言うことを気にかけなかったが、彼のあからさまな恐怖と、その話をしきりに言い張る頑固なしつこさとは、とうとう自然に人々の心を動かしたのであった。鋤《すき》が急いで持ちこまれた。墓は気の毒なほど浅かったので、二、三分でそのなかの士官の頭が見えるくらいに掘り出された。彼はそのとき外見上は死んでいるように見えたが、棺のなかにほとんど真っすぐになって坐り、棺の蓋は彼がはげしくもがいたためにいくらか持ち上げられていた。
 彼はすぐに最寄りの病院に運ばれたが、そこで仮死状態ではあるがまだ生きていると断定された。数時間ののち彼は生き返って、知人の顔を見分けることが
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