姿をたいそう変えてしまったので、もう彼女の友人でも気づくことはあるまいと信じてフランスへ帰った。しかしこれはまちがっていた。というのはひと目見るとルネル氏は意外にも彼女を認めて彼の妻となることを要求したからである。この要求を彼女は拒絶した。そして法廷も彼女の拒絶を支持して、その特殊の事情は、こうした長い年月の経過とともに、正義上ばかりでなく法律上でも夫としての権利を消滅させたものである、と判決を下したのであった。
 ライプツィッヒの『外科医報』――誰かアメリカの出版者が翻訳して出版してもよさそうな高い権威と価値とを持っている雑誌――が近ごろの号に同じこの性質のひどく悲惨な出来事を掲載している。
 巨大な体躯《たいく》とたくましい健康とを持った一砲兵士官が、悍馬《かんば》から振りおとされて頭部に重傷を負い、すぐ人事不省に陥った。頭蓋骨《ずがいこつ》が少し破砕されたのであるが、べつにさし迫った危険もなかった。穿顱《せんろ》術(7)は首尾よくなし遂げられた。刺※[#「月+各」、第3水準1−90−45]《しらく》法(8)もされ、そのほか多くの普通の救助法も試みられた。しかし彼はだんだんにますま
前へ 次へ
全34ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 直次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング