、――地下の地獄のなかでさえこの半分の恐ろしさをも想像することができない。そして、このようにこの題目に関する物語はみな、実に深い興味を持っている。しかもその興味はその題目自身の神聖な畏怖《いふ》をとおしてたいへん当然に、またたいへん特別に、物語られる事がらが真実[#「真実」に傍点]であるという我々の確信から起るものである。ここに私が語ろうとすることも、私自身の実際の知識――私自身の確実な個人的な経験による話なのである。
数年のあいだ私は奇妙な病気に悩まされていたが、医者はその病気を、それ以上はっきりした病名がないために類癇《るいかん》(10)と呼ぶことにしている。この病気の直接的なまた素因的な原因や、また実際の症状さえもまだはっきりわからないのであるが、その外見上の明らかな性質は十分に了解されているのである。そのさまざまな変化は主として病気の程度によるものらしい。ときに患者はたった一日か、またはもっと短いあいだだけ、一種のひどい昏睡状態に陥る。彼は無感覚になり、外部的には少しも動かぬ。が心臓の鼓動はまだかすかながら知覚される。温みもいくらかは残っている。かすかな血色が頬のまん中あたり
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